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大阪地方裁判所堺支部 昭和38年(タ)1号 判決 1967年2月13日

原告(反訴被告以下単に原告と称する) 清水春子<仮名・以下同>

右訴訟代理人弁護士 田中又一

被告(反訴原告以下単に被告と称する) 清水一郎

右訴訟代理人弁護士 山口正身

主文

原告清水春子と被告清水一郎を離婚する。

原被告間の長男二郎に対する親権は被告一郎において行う。

被告は原告に対し、金一五万円およびこれに対する昭和三七年一二月八日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告のその余の請求はこれを棄却する。

被告の反訴請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は本訴および反訴を通じ、これを三分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

この判決は第三項に限り、原告において金五万円の担保を供託するときは仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

原告は

原告清水春子と被告清水一郎を離婚する。

長男二郎の親権は被告清水一郎において行う。

被告は原告に対し、金一四五万八、六八三円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告の反訴請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は本訴および反訴とも被告の負担とする。

との判決ならびに第三項につき仮執行の宣言を求めた。

被告は

原告の請求を棄却する。

被告清水一郎と原告清水春子を離婚する。

長男二郎の親権は被告一郎において行う。

原告は被告に対し、金一四〇万九、〇〇〇円および反訴状送達の日の翌日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は本訴および反訴とも原告の負担とする。

との判決ならびに第四項につき担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。

二、原告の請求原因

(一)  原告は昭和三五年一〇月一三日〇〇媒酌人の世話で被告と婚姻の挙式をして、昭和三五年一一月二六日婚姻の届出をした。

(二)  ところが、訴外父清水太郎は、初めの内は原告に対し、普通の父親としての行動をして居たが、日が立つに従って、段々原告に変な行動に出るので、その都度父の行動を被告に告げると、被告は父に限り左様な変態的行為を為す者に非ずとして取上げないので、原告は泣いて実家に帰り、実母および兄弟にその苦痛を告げ兄よりこの旨を被告に注意してもらったが、被告が原告や原告の兄および実母の言葉も信じないのである、それで原告は意を決して実家に昭和三七年七月頃帰った、その後被告の勤務先の社長夫妻が仲に入り別家することになり、昭和三六年七月中頃○○市○○区○○町○○荘と称するアパート住いをするに至った。

(三)  かくして、原告と被告は右アパートに居住し円満な家庭生活を営むうち、原告は妊娠して病気になったので、アパートを引越し、昭和三七年五月初旬実家に帰ることにいたした次第であるが、昭和三七年八月一三日長男二郎を病院で分娩し、九週間余りして原告は退院した。しかし被告は入院費用も支払わず、昭和三七年八月分よりは原告に対する生活費も支払ってくれず、原告が長男を養育して居るのに被告は原告に対し、全く夫としての態度を示さず、ために夫婦間の愛情は皆無となったので、昭和三七年一〇月下旬大阪家庭裁判所に調停を申立て、被告が反省して原告に愛情の誠意を示すことを期待し、その事実をみようとしたが、ついにこれを見ることができず、昭和三七年一〇月三〇日調停不調に終った、以上のような次第で、原告も被告に対し、全く情熱も失ったので、民法第七七〇条第一項第五号により請求の趣旨のごとく離婚を求める。

(四)  また長男二郎は昭和三七年一〇月三一日被告方に連れ行き目下被告が養育中であるのと、原告は自活の途を開くためには親権を行うことが困難であるので、これまた被告の親権に服するのが長男のためであると信ずるのである。

(五)  原告は離婚をなす結果として結婚による費用金一八万三、二三〇円入院費生活費等の出費金七万五、四五三円也および慰藉料金一二〇万円也の支払を求める。

三、被告の答弁

(一)  請求原因第一項の事実はこれを認める。

(二)  同第二項中、原告が理由なく実家に帰ったこと、昭和三六年七月中頃○○市○○区○○町○○荘アパートに住居するに至った事実は認めるも、その他は争う、殊に被告の父訴外清水太郎が原告に対し、変態的行動に出たというがごとき事実は、全く事実無根であって、絶対に否認する。

(三)  同第三項中昭和三七年八月一三日原告が○○病院に入院して、同日長男二郎を分娩し、同月二六日退院したこと、原告の不当な調停の申立により昭和三七年一〇月三〇日大阪家庭裁判所堺支部において調停不調となった事実は認めるも、その他は争う、殊に被告が入院費用を支払わなかったというがごときは、虚構も甚だしい。

(四)  昭和三七年一〇月三一日原告が長男二郎を無断突如被告方に送り届けて来たこと、爾来被告において養育中である事実は認める。

(五)  同第五項の事実は全部否認する。

四、被告の反訴請求原因

(一)  被告と原告の結婚は原告主張のとおりであるが、被告は父太郎母夏子の二男であって、○○株式会社に勤務し、原告は中村光男同秋子の三女である。そして原被告は結婚後被告の実家の離家に居住し、被告の実家より保有米の支給を受け、被告の月給二万五、〇〇〇円を、その他の生活費に充て比較的余裕のある生活を営んで居たものである。

(二)  しかるところ、原告は怠惰なる上に気儘であって、常に無断にて原告の実家に帰り落付かず、被告勤務先の社長○○○○が仲に入り、原告および原告の母親の強要により同年七月中頃○○市○○区○○町○○荘アパートに転居するに至った、その後原告は妊娠し、原告の要望により昭和三七年四月下旬右アパートを引払い、原告実家の近隣で原告実家と親しくする○○家の一室に一時的に引越した。

(三)  被告は原告の希望により原告を昭和三七年八月一三日○○病院に入院させ、原告は同日同病院で長男二郎を分娩し同月二六日退院したが、この入院費用一切を被告において負担したことは勿論である。しかして被告は原告退院後の原被告夫婦および長男の住居として○○市○○区○○町所在の前記○○社長所有の文化住宅を借り受けたが、原告は退院後原告の実家に帰った儘、被告が折角借受けた右借家に帰り来らず、却ってその後間もなく不法にも被告に対し、大阪家庭裁判所堺支部に離婚の調停申立を為し、同年一〇月三〇日調停不調に終るや、翌三一日早朝何らの予告なく突如長男二郎を着のみ着のまま着替え一枚用意せずして被告方に送り届け来った、爾来被告は長男二郎を引取り養育して居るものである。

(四)  右原告の行為は被告を悪意で遺棄したものであり、民法第七七〇条第一項第二号に該当するを以て、茲に反訴を提起し離婚を求める次第である。

(五)  なお被告は本件結婚のため、原告に対し結納金一八万円也(白越一疋代一万円を含む)を渡し、結婚費用金二二万九、〇〇〇円也(内訳結婚式および披露宴費用一七万五、〇〇〇円、仲介人謝礼九、〇〇〇円新婚旅行費用四万五、〇〇〇円)を費消した。よって被告は原告に対し、本件離婚の結果として以上合計金四〇万九、〇〇〇円也および慰藉料金一〇〇万円也を損害金として請求する。

五、反訴請求原因に対する原告の答弁

本訴請求原因において主張した点に反する反訴請求原因事実は全部これを争う。

六、証拠関係≪省略≫

理由

原告と被告は、昭和三五年一〇月一三日○○○○夫妻の媒酌で婚姻の儀式を挙げ、同年一一月二六日婚姻の届出をなし、昭和三七年八月一三日長男二郎を儲けたものであることは、≪証拠省略≫および当事者弁論の趣旨に徴し明らかである。

よってまず原告の離婚請求(本訴)の当否につき考察する。

≪証拠省略≫を綜合すると、原告が被告との結婚話を持出されたときは、気乗りがしないからと言ってかなり強く反対したが、親兄弟その他周囲からの説得で、ようやく結婚に踏切ったものの、さて結婚してみると結婚前被告側から聞かされた話と相違して、被告の両親と同居生活をし、両親の世話をさせられ、ときには両親から日頃の行動につき嫌味をいわれたりなどしたが、これまで肉親の愛情の下で自由な生活をなし、他人との生活についての苦労を経験したことがなく、しかも利己的で気儘な性格である原告は、これを苦にしその都度実家に帰っては親兄弟に被告方の非を訴えてきた、その上昭和三六年六月頃被告の姉夫婦が、被告方の納屋において、電気ミシン加工の事業を始めるとの話しが持ち上ったが、このことを知った原告は、これを不満とし、早速実家に帰り、被告の両親との同居生活を続けることを拒ばみ、被告の許に帰ろうとしなかったので、被告の勤務先の社長○○○○が仲介の労をとり、被告の父母の了解を得て、原被告両名が○○市○○区○○町○○荘アパートに転居することで、話が落着して同アパートに移り住んだが、転居後しばらく双方が円満な生活をなすうち原告が妊娠し、入居時に同アパートの経営者から妊娠者が退去することを言渡されていることもあり、また賃料値上げで生活困難ということもあったので、原告の要望を容れて、原被告が原告方実家の近隣である訴外○○方の家屋を借り受けて、ここに引越したが、原告は異常妊娠をし病気を併発したため、同年八月一三日○○病院に入院し、同日同病院で長男二郎を分娩し、同月二六日退院して実家に帰り産後の養生をなすことになった。ところが、被告は原告入院前の○○方借家に居住中、勤務先会社の社宅が空いてその使用が許されたので、その家屋に荷物を入れなければ入居の権利を失うと称して原告の反対を押し切り、原被告の家財道具の一部を移したり、或は原告が実家で養生中原告の許に寄りつかず、原告から生活費の名目で月給全部を引渡すよう求められたが、生活費を全然支給しなかったことおよび原告は被告が原告との離婚を計画しているとの噂を耳にするに至り、かてて加えて○○病院入院中から冷淡になった被告の態度からみて事態を憂慮し、大阪家庭裁判所堺支部へ、被告を相手に婚姻関係調整の調停を申立たが、原告はその復元の条件として、被告の給料全部を直接原告の許へ送り届けることと、指定の土地四八〇坪(一、五八六・七七平方メートル)を長男二郎名義にすることを主張したのに対し、被告がこれに応じなかったため、同年一〇月三〇日ついに調停が不調に終った、そこで翌三一日早朝原告の母および兄姉らは長男二郎を被告方に送り届けたものであることおよび現在原告と被告は互に婚姻継続の意思がないことが認められる。≪証拠判断省略≫

事実が以上のとおりとすれば、本件原被告間の婚姻関係が破綻しおり、もはや両者の婚姻が継続し難い事情にあるものであることが認められるところ、右婚姻破綻の原因に対する責任の所在であるが、

およそ夫婦は相互理解と信頼のもとに相和し、互に協力して家庭の円満を維持することに努めなければならないことはいうまでもなく、しかもその夫婦間の和合は、お互に足らざるところを補い、相手に対し寛容と互譲の精神があってこそ、よくこれを保つことができるのである。ところが、原被告らは互に愛情はもちろん情義に欠け、自らは互に勝手気儘な行為をして相手をいたわることなく、むしろ相手の不信を訴えるのみで、譲ることをしないため、互に感情の阻隔を来たし、結婚生活を維持する熱意を失い今日の婚姻破綻の事態を引起すに至ったものというべきであるから、これが原因とその責任は原被告双方に存するものといわざるをえない。

ところで婚姻関係破綻を原因とする離婚は、その請求者にのみ責任があるか、またはその責任が双方にある場合においても、請求者の惹起した責任が相手のそれより大なるときは離婚の請求を認めるべきでないが、その責任が双方にあり、しかもその程度に差異がないときは、離婚を認めるのが相当である。しかして前記原被告の婚姻関係破綻に対する責任は両者同程度のものと解せられるので、右婚姻関係破綻を原因とする原告の請求は結局正当であるので、これを認容しなければならない。

次に被告の原告からの悪意による遺棄を原因とする離婚請求であるが、被告は○○病院退院後実家において産後の養生をする原告の看護に尽さなかったのみか、原告を自己の許に心良く迎えようとしなかったため、原告をして夫不信の念をいだかしめ、被告の許に復元する機会を失わしめたものであるから、原告の実家に滞在する行為を以て、直ちに悪意で被告を遺棄したものと称することができない。よって悪意の遺棄を原因とする離婚ならびにその離婚を前提とする損害賠償の請求は理由がないのでこれを排斥する。

そこで原告の離婚にともなう損害賠償請求につき検討するに、前記のごとく、本件離婚の原因をなす婚姻の破綻を生ぜしめたその責任は、原告にも存しその程度は被告のそれに劣らないものと認められるので、結婚式に要した費用はもちろん、自己の意思により実家に帰り、実家の両親に扶養された間の生活費のごときものを被告の負担に帰せしめることは相当でないと認める外、原告の前記入院の費用は、被告がその支払をなしたものであることは、≪証拠省略≫により明らかであるから、原告の右の各損害金の請求はこれを排斥する。しかし離婚なる事態によって両者の現在および将来の境遇とそれぞれ受ける肉体的および精神的打撃の程度に相当のひらきがあるものというべく、この点特段の事情の認められない本件においては、原告は被告より不利な立場にあるのであるから、被告は原告に対し、これを慰謝すべきものであることは、公平の理論に照し当然の措置であると思料するところ、前記離婚原因、原被告の身分および双方の収入の程度ならびに後記のごとく被告が長男二郎を引取りこれを監護養育すること等諸般の事情を参酌し、その慰謝料額は金一五万円を以て相当と認める。

最後に長男二郎に対する親権行使者指定の点であるが、この点当事者双方、父親である被告一郎をして行わしめることを訴求するのみならず、前段認定の事実に徴するも、被告に指定することが相当と認められるので、右長男二郎に対する親権は被告一郎をして行わしめる。

よって原告の請求は被告との離婚ならびに右親権者の指定と前記認定の慰藉料額の範囲内において、正当であるのでこれを認容するも、その余の部分は失当であるからこれを棄却し、被告の反訴請求はすべて失当であるので、これを棄却することとし、民事訴訟法第九二条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 依田六郎)

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